「TEAM NACS」の大志

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TEAM NACSの成功は、男の子たちの無邪気な夢のようだ。

大泉洋安田顕、戸次重幸、音尾琢真森崎博之の5人からなる演劇ユニット「TEAM NACS」は北海道学園大学の演劇サークルに同時期に集まった「5人の男の子たち」によって結成され、今ではそれぞれのメンバーが映画、ドラマで主演級の活躍をしている。

現在の彼らの成功は、北海道内限定の密度の濃いメディアミックスで得たアイドル的人気による集客力(つまり「人を動かす力」)と、本来は相反するはずの役者としての将来への期待値(つまり「業界を動かす力」)との難しいバランスが奇跡的にとれたことが大きな要因のひとつだと思うが、それは結果論であって大学生の演劇サークルに計算できたことではない。

かつて北海道出身のお笑い芸人タカ&トシが「どうしてタカトシさんは面白いのに北海道でなかなか売れなかったのか」ということを聞かれて「あの頃の北海道には大泉洋という化け物がいたから」と答えている印象的なインタビューがあったが、もちろん大泉洋の強烈な個性と人気がTEAM NACSを引っ張ったことは間違いない。

しかしひとつの強烈な個性はたいていの場合は周りに影をつくる。彼らもそうなった時期があったかもしれない。彼らと同じく学生時代に結成されて売れたバンドや、事務所に作られたグループアイドルなどではボーカルやセンターに光が当たりつづけることがある。それぞれが違った光を少なからず浴びるなどという奇跡はまず起こりえないのである。そこで気持ちがついていかないメンバーが出てきてもおかしくはない。

だがきっとTEAM NACSはまだ何者でもなかった大学生のときからそういった人気や状況が推移する関係の中にいることに慣れていたのではないか。誰と誰がいま険悪だとか、誰かが拗ねているとか、誰かに嫉妬するとか、きっとそんなことの繰り返しで、それでも何故か一緒にいて、メンバーによっては就職していたのに会社を辞めてまで戻ってきて、状況は違えども同じ「覚悟」を持った「5人の男の子たち」でありつづけたのだから。

そしてTEAM NACSというグループが成功した真の立役者は大泉洋以外の4人だ。大泉洋はひとりでも売れたかも知れない。「化け物」と言われるほどのタレント性があったのだ。しかし他のメンバーたちは違う。誤解を恐れず言えば人気はあったが「ただの演劇青年たち」だった。そしてそんな彼らは当初東京から見れば「大泉洋のいる劇団の人」程度の認識だったはずだ。

だが、彼らは「大泉洋のいる劇団の人」と東京に呼ばれた最初の打席で確実に塁に出たのだ。最初で最後になったかもしれない大舞台で結果を残したのだ。4人とも、である。

彼らは学生時代からずっと個々の活動とは別に演劇ユニットとしての活動を着実に続けていた。北海道以外での知名度がなかったにも関わらず初めての5人での舞台では(まだメンバーのうち3人は大学生だった)2500人を集客、2004年の初の東京公演を含む舞台では総動員数10000人を達成するなど着実に演劇ユニットとしての結果を残し続けていた。そこで「ただの演劇青年たち」が培った実力が、幸運にも大泉洋という光が導てくれた一発勝負の大舞台での結果につながったのだと思う。

それは学生時代から、彼ら4人と自分のとてつもない才能に気がついた大泉洋とで示し合わせていたかのように、チームでチャンスを作って個人個人がそのチャンスをモノにしていくという理想的なチームプレーだった。

彼らの舞台はDVD化されているものはすべて見ているが、いわゆる演劇的な小難しさがないものが多い。真っ直ぐで、派手で、いい意味で大味な部分もあるが、それでもどうしようもなく魅力的な瞬間がある。それは5人の友達のようなやりとりが見えた瞬間だ。それはどんな大物演出家も、名優たちでも再現できないことだ。

「いつか俺たち大河ドラマとか出てさ」「あの女優とラブシーンなんかしたりして」「主演映画のポスターの真ん中にドカーンって」みたいなことを学生時代の彼らが話していたかは分からないが、そんなまさに「男の子たちの夢」と呼ぶにふさわしい、言い換えれば「叶わぬ夢」と笑うにふさわしい「場所」に実際に立って遊んでいる40代も半ばの男の子たちがいるのである。

才能とか、芸術とか、評価とかよりも、それはもしかしたら強くて、男から見てもどうしようもなく魅力的だ。きっと今でも「あの監督と会いてーなー」「あのアイドルと共演したいわー(実際にアイドルと結婚したメンバーもいる)」「あのデカい劇場に立ちたいんだよ!」と言いあっているような、自分がいつのまにか諦めていた夢の途中を生きているような「男の子たち」の物語を感じるからだ。まさに北海道出身ならではの「Boys, be ambitious」だが、このクラーク博士の言葉には続きがあるという。

Boys, be ambitious like this old man.
-少年よ、大志を抱け。私のように。-

40代半ばでのTEAM NACSという奇跡には、今やこっちの方がしっくりくると思うわけである。